お父さんコーチに道標を。多くのプロを育てた育成のスペシャリストがYouTubeを通して伝えたいものとは

JFAに登録されている4種のサッカーチーム数は4,000ほど。その多くを占める少年団の指導に当たっているのは、そのチームに所属している選手の父兄、いわゆる“お父さんコーチ”ではないだろうか。日本のサッカー文化醸成にとってなくてはならない存在だ。一方で、お父さんコーチたちはサッカー経験者でない場合も多く、ましてや本業があるため指導についての勉強時間を確保することは困難を極める。

そんな悩めるお父さんコーチに道標を示そうとしているサッカー指導者がいる。神奈川県横浜市を拠点に活動しているFC E’XITO YOKOHAMAの野地芳生監督だ。今回は野地監督に指導理念や具体的なトレーニング内容の一例や考え方をインタビューした。最後には、野地監督がお父さんコーチへの提案をYouTubeで語っている動画も紹介する。

野地 芳生監督
FC E’XITO YOKOHAMA
1959年5月19日生まれ

1985〜1993 日産サッカースクールコーチ
1986〜1990 日産FCプライマリー監督
1990〜1993 日産FCジュニアユース監督(1992.8 日本クラブジュニアユースサッカー選手権優勝、1992.12 高円宮杯全日本ジュニアユースサッカー選手権優勝、1993.8 日本クラブジュニアユースサッカー選手権優勝)
1990〜1998 神奈川県トレーニングセンターU-14コーチ
1993〜1998 横浜マリノスジュニアユース監督
2000〜2004 Y.S.C.C.トップコーチ
2002〜2004 日本サッカー協会理事
2004〜2012 日本クラブユースサッカー連盟理事
2005〜2009 横浜市立東高等学校テクニカルディレクター
2008〜2018 東京スクールオブビジネス専門学校講師
2009〜 FC E’XITO YOKOHAMA 監督※現職

野地監督は横浜F・マリノスの前身、日産自動車サッカー部のスクール立ち上げを行なった後に、日産FCプライマリー(現横浜F・マリノスプライマリー)監督、日産FCジュニアユース(現横浜F ・マリノスジュニアユース)監督を歴任。日本サッカー協会理事などを努め、2009年にジュニアユースクラブ、FC E’XITO YOKOHAMAを創設、指導に当たっている。

マリノス時代の教え子は、言わずと知れた日本を代表するレフティ・中村俊輔選手(横浜FC所属)や、現在は川崎フロンターレトップチームコーチを務めている元日本代表DF・寺田周平氏など、プロになった選手は数知れず。現在指導しているE’XITOでは、選手の希望に合わせて海外クラブへの留学も行なっており、これまでドイツ、イタリア、スペインといった欧州各国へ選手を送り出している。来年はこれまで実績のある欧州への2名に加え、南米メキシコへ1名が留学を控えている。

指導理念「自分自身で改善したと選手が自覚できる指導を」

指導理念を一言で言うと「自分自身で改善したと選手が自覚できる指導を」。ある種、自分の手を離れて次のステージでどんな活躍、成長をできるかが自分の育成の成果だと思っているそうだ。改善に向けたヒントは与えるが、必ずこうしなさいという答えを押し付けることはしない。必ず選手には良い部分がある。それをヒントを与えることで気づきを促す。

信頼関係を築くためのコミュニケーション

まずは選手が良いコンディションで練習に入れるように個別に選手の状態をみる。例えば、E’XITOでは練習場に到着した選手は必ず野地監督とグータッチする。ここで選手の顔色や様子を感じ取る。顔色が優れない選手には適度な距離感を図りながら原因を聞き出せるようにコミュニケーションをとる。必要であれば若いコーチに協力を仰ぐ。このようにして選手の置かれた状況や心境を理解し、信頼関係を作った上でプレーに対する言及をしていく。

ここで個別の選手に対する指導の事例を教えてくれた。

ある子は足元は上手いが徐々に試合でうまくいかなくなってきている。これは選手のスキル不足ではない。中学3年ともなると相手選手のフィジカル面の成長も著しく、上がってきた寄せのスピードなどに対応しきれていないだけだという。そんな選手に焦らせるような声かけはしない。気づきを与えるために「情報が足りていないだけだと思うよ。」と声を掛ける。ボールを保持した時点でどれだけ周囲の情報を持っているか。これに尽きるという。あとは選手が自分で考えオフザボールでどれだけ周囲の状況を把握しようとするか。

またある選手は、自分で一人剥がしてボールを展開するというテーマを設定しトライしている。そんな選手には自分で設定したテーマを正すのではない。もしかしたら周囲の選手をうまく使うように強制した方が短期的な成長は早いかもしれない。だがそれをすれば選手が自分で考えて成長する過程を潰すことになる。選手が設定したテーマは基本肯定。肯定し積極的にやっていいと伝えた上で、どこでチャレンジをするか(前線なのか、ボールを失った時にすぐにピンチになる中盤なのか)、存分にチャレンジできるようにリスクヘッジのアドバイスする

このように個別の選手が考えていることに合わせて対応している。そのほかにも特徴的なトレーニング内容や選手たちに対するスタンスを教えてくれた。

特定の型にはめるような練習はしない

ワンツーから裏に抜け出してサイドからクロスを入れてフィニッシュ。このような流れを徹底してチームに浸透させるような練習は基本しない。どちらかと言えば紅白戦にボールを2個入れてみたり、フィニッシュ手前のボールタッチ数を限定するなど、特殊なルールを付加する様子が練習では見られた。これも選手たちが自分たちで考え工夫する習慣を身に付けさせるためだ。

直近ではピッチを縦方向に3分割し、分割されたゾーンを移動するときはダイレクトパスでないといけないというルールを設けているとのこと。これは前にボールを運ぶ意識を徹底させるためだ。一度止めたら前には進めない、かつ、同じゾーンでボールを回していると相手に追い込まれてしまう。こういった状況が起きやすいルールを設けることで如何に早く前へボールを進めるか、さらにはダイレクトでボールを前に進めるにあたって受ける選手はどのような動きだしが必要かを考えさせる。

公式戦以外の対外試合はほとんど行わない、一番重要視しているのは紅白戦

自分の癖をわかっている選手を相手にするのが一番難易度が高い。強みを抑えにくる相手に対してどう対応するか、ここを鍛えることが肝心という考えだ。チームの改善点をトレーニングしたい場合にトレーニングマッチは効率的ではないと考えている。

試合後のミーティングでは何も言わない

試合終了後は自分たちで試合を振り返るために、野地監督は極力何も言わないようにしている。指導者として何もしないわけではない。数日空けた練習日に振り返る時間を設ける。具体的には、試合内容を踏まえた練習内容を用意し、なぜその練習内容になっているのかを選手たちに言語化させる。このようにして自分で考える習慣を身に付けさせるのだ。入団してきたばかりの選手がすぐにできることではない。しかし、徹底して継続することで最終学年を迎える頃には自分たちで改善点を考え、試合後の帰り道で自分たちで話し合っているような状態に成長しているという。

YouTubeで小学生年代を支えるお父さんコーチに道標を

E’XITOは昨年YouTubeチャンネルを開設し、動画を投稿し始めた。長年の指導経験で蓄積されたノウハウをYouTubeを通して発信し、小学生年代を支えるお父さんコーチには参考にして欲しいとのこと。「発想やボールタッチの感覚は後から身につけられない。これを小学生やサッカーを始めたばかりの選手にコーチが指示して徹底させるような指導は推奨していない。ましてや選手の長所をコーチが断定するようなことは全く不要。まずは楽しむ、子供の柔軟な発想を大切に」そう熱を込めて語る野地監督の根底にあるのは、あくまで選手たちの成長や日本サッカー界への想いだ。

通常のインタビュー記事であればE’XITOのチーム紹介をして記事を締め括るのが通例だ。しかし今回はあえてこのような締め方でこの記事を終えよう。育成年代の指導に正解はない。それが故に一度YouTube動画「小学生年代を支えるお父さんコーチへご提案があります!」の視聴をお勧めする。

 

FC E’XITO YOKOHAMA
活動拠点:神奈川県横浜市鶴見区
URL:http://www.exito-yokohama.com/
メールアドレス:info@exito-yokohama.com

(取材・文 Yuya Akiyama)

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