創立7年で全国大会出場!川崎市の星・FC Kanaloa(カナロア)の強さに迫る

応援団を含めた試合前の大円陣が代名詞となったFC Kanaloa(以下、カナロア)は6月18日、清瀬内山グラウンドで行われた第38回日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会関東予選の4回戦で、栃木SCを敗り初めての全国大会出場を決めた。

クラブ創設は2017年、カナロアの名を掲げたのは2020年。いわゆる”新興チーム”が、関東大会で名だたる強豪を敗り、創設7年で全国行きを決めた軌跡を、須藤純矢代表(以下、須藤氏)、黒川大吾U-15監督(以下、黒川氏)、藤田晃徳U-14監督(以下、藤田氏)に伺った。

全国大会出場までの軌跡

クラブユースサッカー選手権(U-15)大会神奈川県大会を勝ち上がったカナロアは、関東大会の1回戦で東京都のAZ’86東京青梅を敗ると、2回戦では関東リーグ1部の横浜・FマリノスJYと激突。1点を先制されるも逆転で勝利し次に駒を進めた。3回戦で大豆戸FCとの神奈川ダービーを制すと、全国行きをかけた4回戦で栃木SCを3対1で下し、見事全国の切符を手にした。

全国大会出場を決めたFC Kanaloa

全国出場はある意味「狙って出した結果」

「11人では関東大会は勝ち抜けない」

U-15カテゴリー監督の黒川氏はそう考えていた。ジュニアユース世代の集大成となるU-15世代で選手たちにどう結果を出してもらうのか、クラブとしてどう結果を出すのか。”結果”という概念をどこに置くかは育成年代においては議論の余地はあるが、この場合の結果とは、リーグ戦、クラブユース、高円宮杯など”公式戦での大会結果”ということになる。その問いに対する黒川氏の答えが「(トップレベルの選手がいても、それが)11人では勝ち抜けない。」というものだった。

カナロアの場合、U-13カテゴリーを須藤氏、U-14カテゴリーを藤田氏、U-15カテゴリーを黒川氏が担当するという役割分担となっている(2023年8月時点)。当然、各カテゴリー担当者に任せきりというわけではなく、全スタッフで全選手を育ているというクラブ方針を持つが、それぞれの年代で選手に習得させるものにはもちろん違いがあり、それをカテゴリー担当スタッフが担っている。

黒川氏は、選手たちがU-15に上がってきた際に、いかに全選手が高いモチベーションを持ち切磋琢磨する状態であるかを重要視しており、そうであって欲しいと須藤氏、藤田氏にリクエストしていた。神奈川県の場合、県リーグに複数チームを出場させる事が可能であり、多くのチームが同一年代での2チーム編成をし出場している。

実際にカナロアも2チームを編成しリーグ戦に出場している。そして、「毎年リーグ戦は前期と後期で半分以上入れ替えているし、そうすると選手たちにも伝えている(須藤氏)」。これが、選手たちにとってモチベーション維持に大きく影響しているのではないだろうか。

今大会での活躍が著しかった各選手がそうだ。強烈なキャプテンシーを発揮している今鷹叶(10)は、U-13時にはBチームに属していた。栃木SC戦でゴールを決めた奥翔汰(11)は昨年までBチーム、大豆戸FC戦で決勝ゴールをあげた橋口昊生(5)もだ。実際、現時点でも神奈川県U-15リーグでBチームに所属しながらも、今大会に出場し活躍する選手は少なくない。

もはや、カナロアにAチーム、Bチームという概念は希薄であり、その環境で切磋琢磨する選手たちは常にモチベーションを維持、試合に出たいという欲求を満たせる可能性を常に持ち合わせているからこそ、どの選手が出場しても高いクオリティを発揮することができたのではないだろうか。全国出場という結果、これは短期的な結果ではなく、U-13から今に至るまでクラブが繋いできたバトンがしっかりと繋がった、それはある意味狙って出した結果だった。

主将・今鷹叶(10)のキャプテンマークの裏には”全国”の文字

基準を上げることでサッカー人生の逆転を

もう一つこの世代の特徴がある。全国大会出場を果たしたこの世代、クラブにとっては5期生になる。カナロアの名前を冠して行った初めてのセレクションで入団してきた選手たち、いわばカナロア純血世代だ。この世代を評するとき、黒川氏からは幾度となく「良い空気感」という言葉が口をついた。

「ボールの管理とかそいうことも含めて、上に行くのはこういうチームだなという感じはあった(黒川氏)」。練習や試合に挑むモチベーション、チーム全体での一体感、当たり前のことをこなす力。これらを高いレベルでこなす選手たちは、「スタッフの気持ちも乗せてくれる(黒川氏)」存在だった。

黒川大吾監督

選手とスタッフの結びつきが強いことも影響している。実際、この5期生はカナロアサッカースクール出身者が14名、中にはジュニア時代から須藤氏、黒川氏と接していた選手が多く在籍しており、「僕らの顔色を見れば何を言いたいかがわかる(須藤氏)」。選手それぞれの基準が高く、なおかつスタッフとの信頼関係が強固にあるからこそ「サッカーも、サッカーではないそれ以外の部分でも理想の成長を遂げてくれた(黒川氏)」世代でもある。

だがしかし、やはり入団当初からみんなが高い基準を持ち合わせていたわけではない。「うちにはJリーグの下部組織や関東リーグレベルのチームに入れなかった選手たちが来るので、サッカー人生の逆転をさせる為には取り組む姿勢を変えていかないといけないし、タウンクラブだからこそ出来ると思っています(須藤氏)」。クラブの想いを語る須藤氏の言葉からは、入団してきた選手の基準を絶対に上げるという強い決意が感じられた。

本気で青春する中学サッカー

カナロアにはみんなで何かに向かう一体感を感じる。それはまさに青春という言葉を想起させる。「充実した3年間を送って欲しい。この中学生年代、甘酸っぱい青春をいかに楽しんで本気になれるか。それに本気でやるから楽しい。(黒川氏)」

それは選手やスタッフだけではなく保護者や観客をも巻き込んでいる。クラブユース関東大会でも、ピッチサイドでは下級生がはちまきスタイルで応援をする姿が毎回見られた。また、保護者はセルフィーにカメラを取り付けその様子を撮影し、それをチームプロモーションビデオに仕立てていた。まさに総力戦だ。「少年団チックかもしれないです(黒川氏)」とはよく言ったもので、その空気感はまさに青春の一コマだ。

盛り上げる応援団

選手が本気になる、下級生が本気になる、スタッフが本気になる、保護者が本気になる。カナロアというクラブに集いし者たちが本気になって何かを追う姿は見ていて非常に清々しい。実際にクラブからのメッセージも「選手、保護者、スタッフもみんなで楽しみましょう」というものだ。保護者には極力観戦に来ることを勧め、どんどんスタッフとのコミュニケーションを図って欲しいという思いをも伝えている。

サッカークラブにとって保護者との関係性というのは色々な要素がある。ともすればクラブ側が抱える必要のない事柄をも引き受けなければいけない瞬間が出てくる。しかし、「保護者の皆さんにはスタッフとの距離を詰めてください、それが子供達を成長させる材料になるんです(須藤氏)」と発信している。保護者との距離感も近いことを良しとしている姿は、クラブ側にかかる可能性がある負荷をも厭わない程に「選手たちの成長」に本気でコミットしているのだ。

川崎市の星がいよいよ全国に 市内4種クラブの期待背負う

カナロアの前身はエンジョイSC。須藤氏が指導をしていた小学生チームのジュニアユース部門として立ち上がったのが2017年。その後、クラブとしての方針の違いから別組織へ移行する際にカナロアの名を冠した。展開しているスクールは、当初30名程度のスクール生も現在では200名を超える。1期生の選手たちは地元高津区の選手たち。その後、「市外から選手を募るのではなく川崎市内の選手等にジュニアユースの選択肢を増したい」という須藤代表の想いから、”練習会場から40分以内”という入団規定を設けている。

ただ、環境は決して満足いくものではない。メインの練習場は土グラウンドだ。しかし、指導の質と選手の成長にコミットする本気度は決してどこにも負けることなく、その結果全国という舞台にたどり着いた。

そんな川崎市高津区発のカナロアが、クラブユースサッカー選手権(U-15)大会に挑む。全国大会出場決定時には、「県内の4種(小学生)チームの指導者からいっぱいお祝いの連絡がありました。ある人からは夢があるって(須藤氏)」。実際、中学3年間という短い期間、カナロアが選手を預かることになるが、その前段階で選手を育ててくれていた4種の存在は決して忘れてはならない。「タウンクラブがJリーグの下部組織を倒して全国に行って、そういう夢を与えられるところまで選手たち頑張ったんだなって思います。(須藤氏)」

大会は2023年8月15日、北海道・帯広で開幕する。カナロアにとっては初の全国大会。「川崎魂を持ってみんなで楽しみたい(黒川氏)」。選手たちの青春が帯広で輝くことが、今から楽しみでならない。

(取材・文 鈴木優一朗)

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