「本気でサッカーに打ち込めば、一流の社会人になれる」異彩を放つ瀬谷インターナショナルの育成方針に迫る

横浜市瀬谷区にひときわ異彩を放つジュニアユースクラブがある。

瀬谷インターナショナルフットボールだ。彼らの積極的な情報発信を見てみると常識に囚われない数々の独特なトレーニング哲学が紹介されている。

これほどまでに独自路線を突き進もうとする背景には、明確に裏打ちされた選手育成の哲学がある。実際のトレーニングを拝見しながら、代表の土肥賢太氏から話を聞いた。

 

■「止めて、蹴る」の基本練習に多くの時間を割く

19時少し前にグラウンドに到着すると、すでに選手たちは各々がピッチに広がり、簡単に体を動かしていた。迎えてくれた代表の土肥賢太氏に挨拶をして練習を見学させて貰うと、いつも見るサッカーチームのような、全員が集合し監督の挨拶、指示を受けトレーニングスタートという一般的な光景ではないことに気がつく。

ストレッチやジョギングといったウォーミングアップがまったく無く、自然とグランドに到着した選手から二人組のインサイドパスで練習が始まるのだ。土肥代表いわく、「怪我の発生を防ぐには筋肉の温度を高めることが重要で、ストレッチなどは怪我の発生率にほとんど関係がない」という。筋温を高めるためにジョギングをするならパスやリフティングの様な練習でウォームアップを行えば技術練習も同時にできるという考えだ。

距離を縮めたり、タッチ数の限定、利き足を変えたりという細かな設定で「止める、蹴る」の練習を何度も何度も繰り返す。その後も、リフティング、マーカーを使いドリブル、1対1とみっちり基本的な練習に1時間ほどを費やした。

一見、個人戦術や組織プレーを教える近年の風潮と逆行するように見える練習内容。しかし、「高い基本技術を持つ選手はどんなサッカーも体現できるようになる」という明確な考えがここにある。瀬谷インターナショナルフットボールでは、将来高いレベルで活躍できる選手を育成するために基本技術の徹底が必要不可欠という考えのもと基礎練習に時間の多くを費やしているのだ。

 

■理論が詰め込まれた試合形式

基本練習が終わると6対6と5対5の2種類のゲーム形式の練習が行われた。この2つのミニゲームはそれぞれに「別」の明確な目的がある。

まずフットサルより一人多い6対6のトレーニングは人数が多い分練習強度も低くなる。さらにセット間の休憩時間も十分にとることで技術的なミスは大幅に減る。この6対6の目的は疲労のない状態でプレーすることで各選手のプレーや判断の質を最大限引き出すことだ。

次に行われる5対5は人数が減ったことで一気にトレーニング強度が高まる。ボールが外に出た瞬間にはコーチからピッチ内に新しいボールが蹴り込まれ、選手達には全く休む時間が与えられない。選手達は休憩なしで連続的にアクションし続けることを求められ、技術ミスや判断ミスが大幅に増える。かなりキツそうに見えるこの5対5の目的は、選手達が試合で走り切るための高いフィットネスを作ることだという。このように同じゲーム形式の練習でも、ルールや設定を変えることで目的を明確化していることが印象的だった。

 

■本格的なウェイトトレーニング

ボールを使った練習が終わると、選手たちはトレーニング器具をグラウンドに持ち出しウェイトトレーニングを始める。グラウンド上で子供達がバーベルを担いでウェイトトレーニングを行う様子は「異様」にも見える。バーベルスクワット、メディシンボール投げ、ハードルジャンプなど 7〜8種類のトレーニングを専門のトレーナーの指導を受けながら次々とこなしていく。

トレーニングメニューは陸上競技から持ち込んだものを基盤として作られているが、選手のポジションやプ レースタイルによって内容も変わってくる。また、当日のコンディション、練習の疲れ具合などを 個人が最終的な判断をし、器具の重さや、回数、セット数など消化するメニューを決めていく。 公式戦のスケジュール、疲労の蓄積などを考慮し、どこまで追い込むか、軽い負荷にするかは、基本練習が終わった時点で選手が判断している。全員が同じメニューをこなすことは無く、休憩、終了のタイミングも選手に委ねられている。すべてが実にスムーズだった。

ウェイトトレーニングから見えてくるのは、選手達のずば抜けた自主性。指導者から教えてもらっているという受け身ではなく、自らが積極的、能動的に何をしたら良いかという明確な判断基準を持っているように見えた。

 

■選手達の「才能」を伸ばす育成論

瀬谷インターナショナルフットボールでは、選手個々の特性を伸ばす育成方法を取り入れている。

例えば股関節が柔らかい選手は様々な方向にパスを送り出せるため、多くのパス練習を行えばトップレベルのパサーとなれる可能性が高い。また、足首や上半身が柔らかい選手は方向転換に優れているため曲線的な動きに強い。ドリブルや相手からボールを奪う技術につながる特徴だ。このように、選手個々の生まれ持った才能を見抜き、それぞれに個別のアプローチをすることで選手達は飛躍的な成長を遂げる。クラブの育成はそこに特化している。

また、選手の特徴を見つけだすために走力、ジャンプ力、持久力などを測定するフィットネステストの実施や、筋肉量、血液データなどの身体の内部のデータまで管理されていることには驚かされた。選手を徹底的に知ることが彼らの隠された才能を見つけ出す近道ということだ。

 

■好きなことを突き詰めれば一流の社会人になれる。

サッカー選手として成長するために徹底的に細部までこだわり選手達に強烈な努力を求める瀬谷インターナショナル。しかしクラブとしてプロサッカー選手を何人排出できるかは目標にしていないという。一見、逆説的に思えるが、そこには「好きなことを突き詰められる人間は一流の社会人になれる」という土肥代表の明確な教育方針がある。

サッカーを突き詰めていくと食事制限、厳しいトレーニング、規則正しい生活、睡眠の管理、語学や身体についての学習など、サッカーに付随する「嫌いなこと」にも努力を継続しなければならない。それが好きなことを突き詰めるということ。サッカーでそれができる選手は社会に出ても同じことができる。そして、そういう人材はどんな企業に行っても、どんな集団に行っても必ず必要とされる。

だから、土肥代表は「本気でサッカーに打ち込めば、一流の社会人になれる」と選手達に伝え続けている。

 

■土肥賢太氏のプロフィール

小学1年生で地元瀬谷区でサッカーを始める。10代の頃はベンチを温める機会が多かったが高校卒業と同時にブラジルに渡る。日本に戻り、桐蔭横浜大学に進学し一年遅れで卒業。23歳から海 外へ渡りオーストラリア、ドイツ、オランダ、ボスニアなどで28歳までプレー。2014年にはボスニアヘルツェゴビナの一部リーグで契約を勝ち取った。契約には至らなかったが練習参加のオファーを受けてクラブワールドカップにも出場したニュージーランドのワイタケレ・ユナイテッドの練習にも参加した。

2014年に瀬谷インターナショナルフットボールを設立し、小学6年生18人で出発したクラブは現在200名を超えるクラブへと急成長を遂げた。2020年2月より本田圭佑選手が発起人となって設立したONETOKYOのGM補佐に就任しクラブの運営と強化に携わっている。

(取材・文・写真=飯竹友彦)

(※練習風景)

(※代表の土肥賢太氏)

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