AC等々力がエンブレムリニューアルに込めた想いとクラブに宿す信念に迫る

2009年に創設されたサッカークラブ、AC等々力。13年目を迎えたAC等々力は、このタイミングでエンブレムをリニューアルするという大きな一歩を踏み出した。クラブの歴史や信念に迫りながら、その真意を代表の斉藤公秀氏に伺った。

AC等々力とは

AC等々力(Athletic Sports Club Todoroki)は、神奈川県川崎市中原区に拠点を置くサッカークラブで、子供たちや地域の方々に「サッカーの楽しさ」を伝え続け、共に学び「心と身体の健康」を育んでいくことを目的に掲げ活動している。年少~年長のキッズクラスを初め、小学生男子クラス、小学生女子クラス、トップチームとなる中学生年代の女子ジュニアユース、男子ジュニアユースの各クラスがあり、多くの子供たちが所属している。

そんなクラブの代表を務めるのが斉藤氏だ。

法政大学在学時からの約7年間、高校女子サッカーチームを指導していた経験を持つ斉藤氏が、結婚を機に地元に戻った際に友人から「チームを作ってくれないか」と頼まれたのがAC等々力創設のきっかけになっているという。当時、女子チームの指導からは離れていたものの、サッカー指導自体への熱が残っており、「じゃあやろう」と立ち上がり今日に至る。

先に記述したように、斉藤氏は法政の高校女子チームを指導していたのだが、実は法政には大学の女子チームが存在しない。そのため、そのまま大学へと進学する教え子にはサッカーを続ける環境がなかった。そんなこともあり「もう少しサッカーをしたい学生のための場所を提供したい」という想いが生まれ、本格的にAC等々力立ち上げに動き出すこととなった。

立ち上げ当時から男子・女子ともに受け入れていたが、想いのきっかけになったという点では、斉藤氏の”サッカーをしたい女の子のために”、という部分が色濃く出ているクラブである。

要所要所でどう判断するかという原理原則を大切に

AC等々力では、どのカテゴリーにおいても大切にしていることがあるという。それは、“サッカーの原理原則をしっかりと指導していく”、ということだ。原理原則というのは要所要所でどう判断するのか、ということである。

「今はドリブルなのか」「それともパスなのか」「守りながら、チャレンジなのか、それともディレイなのか」など、サッカーには多くの局面が存在する。特に小学生年代では、一人の選手がボールを持ったままゴールまで打開することが可能なシーンが多々ある。しかし、将来を見据えていくと、それだけでは打開できない瞬間が必ず訪れる。

こう聞くと、「じゃあドリブルをしない方がいいのでは」と考えがちだが、理由もなくドリブルで突破することを禁止してしまうと、その選手が持っている特徴(武器)が失われてしまう。だからこそ、どこでドルブルを使うのが有効的なのか、その判断や駆け引きをどうするのか、という”判断”の部分を、特に下のカテゴリーから丁寧に教えていくことが大事なのだ、と斉藤氏は話す。それが、中学生年代、高校生年代と進むにつれて必ず選手自身のためになると。

AC等々力では、この考え方を保護者にも理解してもらえるよう、「AC等々力ジュニアフィロソフィー」を掲げ、伝えるようにしているという。こうすることで、ここでどんな指導をしているのか、なぜそのような指導なのか、ということをしっかりと保護者の方にも理解していただき、家庭内で活発なコミュニケーションが生まれているという。

写真左から2番目が斉藤公秀氏

多くの大人と関わることで子供たちに多様な選択肢を

このような大きな幹となる考え方は、当然のことながらAC等々力のスタッフ全員にも宿されている。学年が変わったり、例えば急きょコーチがお休みになっても、どのコーチも子供たちに伝えることは同じであることが子供たちを迷わせることがなくスムーズに落とし込むことができる。そのように考えている。また、あらためて2022年度を迎えるにあたり、「One Orange~Football Place~」というクラブビジョンを策定した。(※詳細は次回記事にて)

このクラブビジョンでは、自分たちはどういう存在なのか、何を考えどうしていくのか、ということを具体的にアクションまで示したものになっている。そんなスタッフ陣から話しを伺うと、「クラブを卒業するまでに、子供たちが多くの大人と関わることが特徴です」という言葉が聞かれ、非常に印象に残っている。

幼児から中学生まで各カテゴリーがあるAC等々力にとって、まさに子供たちの成長とともにあるのが大人たちスタッフ陣だ。この大人たちが、子供たちの成長に誰一人欠けることなく関わることで、子供たちにとっては多くの選択肢、多くの大人像を目の当たりにすることになり、それこそ将来の選択肢の礎になるのだと感じた。

エンブレムリニューアルに込めた想い

そんなAC等々力は、創設13年を迎えたタイミングで、エンブレムをリニューアルした。近年、ユベントス(イタリア)やガンバ大阪など、多くのプロサッカーチームでエンブレムのリニューアルが行われ話題を呼んだが、エンブレムを変えるという決断に対して「あまりいい意見ばかりではなかった」と斉藤氏は明かした。

たしかにエンブレムを変えることには賛否両論あるだろう。培ってきたイメージ、想いを覆すことにもなりかねない。けれども、干支も一回りし、クラブの1期生も大人になり、色々なことが1周したタイミングだったこともあり、このまま現状維持だけでは前に進むことができないと考え、この大きな決断に踏み出せたという。

新デザインは、卒業生のお父さんでもあるデザイナーの方に依頼したという。「卒業生のお父さんであればほかのデザイナーさんよりも、クラブの良いところ・悪いところを理解してくれているので、最良のものが出来上がるのではないか」と考えたからだ。

ひょんなことから”サッカーをしたい女の子のために”と生まれたチーム、AC等々力。クラブ創設から10年以上の時を経て、ブレない信念は持ちつつも、時代の流れに沿って大きく変わっていくことを決意した。シンプルで分かりやすく、かつAC等々力らしさも残した新エンブレムは来年度からすべてのカテゴリで着用されるようになるという。こだわり抜いたエンブレムを胸に試合に臨むAC等々力の選手たち、地域に応援されるチームを目指して歩んでいくこれからのAC等々力の活躍に、今後も目が離せない。

(取材・構成 鈴木優一朗 文・田中優羽)

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